【画像あり】簡便な管理を可能とするオオムカデ目の飼育法の開発
目 次
はじめに
住宅への侵入による不快感および恐怖感など精神的な被害に加え咬傷被害6)が大きな問題となるオオムカデ目について、防除方法の開発に不可欠な供試虫の安定供給を目的とした、簡便な管理を可能とする飼育法の開発を試みた。
昆虫類の研究目的における人工飼育法は石井象二郎ら(1969) 1)昆虫生理学の先駆的研究者によりまとめられ、その集大成とも呼べる書籍が湯嶋ら(1991) 2)によって刊行されている。多足類の特にムカデに関するものについては、高桑(1940)と篠原(1974)のほかLewis,J.G.E (1981)が詳細にまとめているが、いずれも既に絶版している4)。現在も入手可能なものはごく限られており、秋山(2001) 3)と田辺(2001) 4)の2冊程度である。多足類の解説書の多くが既に絶版となっているのが現状である。
このようにオオムカデ目の飼育法については著しく情報が乏しいことから、現存する書籍を参考に飼育方法だけでなく採集方法についても検証したので以下に報告する。
検証項目一覧
I.オオムカデ目の安全かつ効率的な採集方法
II.飼育方法; 床材の検討
III.飼育方法; 多頭飼育の検討
IV.飼育方法; 飼育数の検討
V.飼育方法; 繁殖および脱皮環境
VI.飼育方法; 雌雄の判別方法
VII.多頭飼育時の行動観察; 個体間接触
VIII.多頭飼育時の行動観察; 勢力相関
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写真1 ムカデの潜む森林沿いのU字溝 |
写真2 うす塩フィッシュソーセージ (丸大食品㈱製) |
写真3 トビズムカデの単独飼育状況 |
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I. オオムカデの安全で効率的な採集方法
田辺(2001)と秋山(2001)はそれぞれの著書でつぎの様に記している。オオムカデ目の採集に使用するピンセットについて、25~30cmのものは体長100mmを超える大型のオオムカデ目の採集に用いる4)。ステンレス製のものは腰が柔らかくて扱いやすい(田辺,2001)4)。ムカデを移動する際の注意点としては、ムカデの胴部よりも少し前をピンセットで挟み、素早くケージに移す事がコツであろう3)。しかし、ピンセットで掴もうとすると、素早く這いあがってくるし、カップを上からかぶせても、蓋を滑り込ませる時にできたわずかな隙間から、スルスルと出てきてしまう(秋山,2001) 3)。
以上を踏まえ、ムカデを取り扱う際、ピンセットでは咬傷被害を受ける恐れがあるため、全長45cmの火バサミを用いることにした。また、他の装備や採集に適した気象条件についても考察した。
I – 1. 材料及び方法
①採集対象; トビズムカデ
Scolopendra subspinipes mutilansL.Kochおよび、アオズムカデ
Scolopendra subspinipes japonicaL.Koch
②採集地; 大阪府守口市森町北 森林内 (オオタカ保護区域)
③採集期間; 2011年5月23日~6月30日
④採集時間; 毎日9:00~10:00 の1時間以内とした。
⑤採集容器; クリアポット (㈱セリア製,Φ110×H120,スクリュー式の蓋付)
⑥採集道具; ステンレス 火バサミ 45cm (㈱安吉製, 23×450, 先端部波板)、ゴム手袋 (㈱セリア製, キッチン用品)
⑦床材; ティシュペーパー エルモア200 (カミ商事㈱製,容器床面に2枚(1組)を湿らせて敷いた)
I – 2. 結果および考察
使用した火バサミは幅が23mmと広く、45cmとピンセットより長いためムカデの顎肢、歩肢とも掛からず安全に採集できた。なお、ピンセットを用いた採集は一度だけ試してみたが、秋山(2001)の指摘通り本当に咬み上がってきたため非常に危険であった。このことから採集時は火バサミを利用する方が無難であると考えられた。
手袋についてはゴム製の表面がツルツルしたものがムカデの顎肢、歩肢とも掛からないため最適と思われた。
採集時の天候は、連日晴天が続いた日よりも夜間に降雨のあった翌日が最も効率的に採集できた。1日1時間当たりの成果は最大で6頭であった。
採集成果 ; トビズムカデ;体長50~70mmの個体 5頭、100~140mmの成体 20頭、アオズムカデ;体長50~70mmの個体 4頭、100mm前後の成体16頭
I – 3. 導き出された具体的な採集方法
まず、雨合羽に長靴を履いて樹上からの落下個体等の侵入を予防する。次に、ゴム手袋を装着し、長さ45cmの火バサミとスクリュー式の蓋のついたポリプロピレン製の採集容器(Φ110×H120)を5個以上、万が一に備えポイズンリムーバー「THE EXTRACTOR (㈱飯塚カンパニー)」と抗ヒスタミン剤含有ステロイド軟膏「ムヒαEXクリーム(㈱池田模範堂)」を携帯し、いざ出陣。なお、従来品の「ムヒ」とは含有成分が異なることから全くの別物と考えてよく、オオムカデ目のもつ複数の有毒物質5)を考慮すると、従来品は応急措置6)には適さないものと考える。
森林沿いのU字溝に堆積した落ち葉を火バサミで一気にかき上げるとすぐに見つかる(写真1)。ムカデの位置を確認した後、採集容器の蓋を開け身体からできる限り離した水平な場所に置き、一気にムカデを挟んで容器に放り込む。この動作を迅速に行うことで安全に採集できる。
なお、ムカデは採集直後、猛烈に暴れるため採集容器に複数個体入れると即座に咬み合いそのまま共食いに進展する。そのため単独で入れるようあらかじめ採集容器を複数個用意して携行する方が良い。また、容器内に床材が無いと落ち着かず暴れ続けるため、ティシュペーパーを1~2枚ほど湿らせて容器の底に敷くとムカデが隙間に潜り込み、すぐにおとなしくなるため安心できる。
II. 管理しやすい床材の検討
オオムカデ目の飼育方法については秋山(2001) 3)と田辺(2001) 4)がそれぞれの経験に基づく手法を著書で紹介しているが、いずれもピートモスやバーミキュライトなど繊維状もしくは粒状の素材を床材としているため糞の清掃が難しく、寄生ダニが発生する場合があり衛生上の問題が残されている。床材の選択や配合にはまだ開拓の余地がある(田辺,2001) 4)。
そこで床材について独自に検討した結果、ムカデは自ら水容器から直接水を飲むことができるため飼育ケージ内を必ずしも保水性の高い素材で覆う必要が無く、また、複数個体の飼育を想定した場合の床材交換の簡便さを考慮すると、床材は繊維状や粒状ではなく面状の方が作業性に優れていると考えた。
II – 1. 材料および方法
①飼育対象 ; トビズムカデ
Scolopendra subspinipes mutilansL.Koch, 5頭
②採集地 ; 大阪府守口市森町北 森林内 (オオタカ保護区域)
③飼育期間 ; 2011年5月23日~6月13日
④飼育容器; クリアポット (㈱セリア製,Φ110×H120,スクリュー式の蓋付)
⑤シェルターおよび床材 ; ティシュペーパー エルモア200 (カミ商事㈱製,容器床面に2枚(1組)を湿らせて敷いた)
⑥餌台 ; 市販のペットボトルの蓋, 1個
⑦水容器;市販のペットボトルの蓋, 1個
⑧飼育環境 ; 24~27℃(室温),60~80%R.H.
⑨飼育場所 ; 大阪府守口市森町, 鉄骨住宅, 2階, 北側居室内
⑩餌; リンゴ (品種は問わず外皮を剥いて約1cm角に切って給餌した)
うす塩フィッシュソーセージ(写真2) (丸大食品㈱製, 5mm角に切ったものを1個投入して給餌した)
II – 2. 結果および考察
予備的に5頭をポリプロピレン製の飼育容器(Φ110×H120)にそれぞれ単独で収容し、容器の底に適度に湿らせたティシュペーパーを敷いて様子を見た。水容器および餌台としてペットボトルの蓋をそれぞれ利用した。餌はリンゴと魚肉ソーセージを2日に1回の頻度で交換し、同時に床材と水も新しいものに取り換えた。その結果、特に問題無く3週間を経過することができた (写真3)。この間、他の個体は田辺(2001)4)の飼育法を参考に、床材にバーミキュライトを使用して単独飼育した。
床材にティシュペーパーを利用した場合、面状であることからピンセット一つまみで撤去でき、容器の内壁に付着した糞や餌の食べ残しなど汚れも一度に拭き取ることができたため、床材交換と清掃作業を同時かつ簡便に終わらせることができた。また、ムカデを収容したまま作業できた。これは特筆すべき有益性である。バーミキュライトでは糞の確認と除去に時間を要し、床材の交換時にはムカデを一時的に別の容器に移す必要があった。以上により、床材はティシュペーパーを利用するのが最も効率的であると考えられた。
III. 多頭飼育の検討
今回の飼育対象はオオムカデ目に属する2種、トビズムカデ
Scolopendra subspinipes mutilansL.Kochとアオズムカデ
Scolopendra subspinipes japonicaL.Kochであるが、秋山(2001) 3)と田辺(2001) 4)はいずれも1容器あたり1頭の単独飼育を推奨している。同じケージに多頭飼育すると、よほど広いケージではない限り、共食いする可能性が高い(秋山,2001)3)。仮に成体の雌雄がそろったとしても、同じ容器に入れた状態で共食いが起こりかねない(田辺,2001)4)。これはオオムカデ目の捕食性の高さが根拠と考えられるが、実験材料として飼育する場合、例えば殺虫剤1成分の基礎効力試験を行う場合など少なくとも10頭3反復、無処理区を含めて計60頭を必要とする。実際には数段階の試験区と数種類の試験項目により百数十頭から数百頭の安定的な確保が不可欠となる。このことから単独飼育では先に述べた床材の管理から餌、水の交換まで労力が掛かり過ぎてしまい、また、それに伴うコストも無視できなくなる。そこで、多頭飼育を実現すべく独自に打開策を検討した。
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写真4 トビズムカデの多頭飼育状況 |
写真5 アオズムカデの多頭飼育状況 |
写真6 LIFELEXクリアコンテナL 浅型 (コーナン商事㈱製) |
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III – 1. 材料及び方法
①飼育対象; トビズムカデ
Scolopendra subspinipes mutilansL.Kochおよび、アオズムカデ
Scolopendra subspinipes japonicaL.Koch
②生育齢; トビズムカデ;体長50~70mmの個体 5頭、100~140mmの成体 10頭、アオズムカデ;体長50~70mmの個体 4頭、100mm前後の成体16頭
③採集地; 大阪府守口市森町北 森林内 (オオタカ保護区域)
④多頭飼育ケージ; ワイドビュークリア カラー 大 (㈱マルカン製,W375×D224×H235,床面積560㎠)
⑤シェルター; ウェットシェルターS (㈱スドー製,W90×D72×H60) 2個
⑥餌台; コースター ミニプレート (㈱ホリコシ製,W85×D85×H18,深さ8mm) 1個
⑦水容器; レプティボウルS (㈱スドー製,W100×D100×H25) 1個 ※ 水は浄水を使用し、7日毎に交換
⑧床材; ティシュペーパー エルモア200 (カミ商事㈱製,ケージ床面に8枚(4組),シェルター内床材として8枚(4組), 保湿用として4枚(2組))
⑨管理環境; 24~27℃(室温),60~80%R.H.
⑩飼育期間; 2011年6月14日~6月21日
⑪飼育場所; 大阪府守口市森町, 鉄骨住宅, 2階, 北側居室内
⑫餌;リンゴ (品種は問わず外皮を剥いて約1cm角に切って2日毎に交換)
うす塩フィッシュソーセージ (丸大食品㈱製, 5mm角に切ったものを10個投入し、2日毎に交換)
きび砂糖 (日新製糖㈱製 0.5gを2mlの浄水で溶かし、無くなり次第追加)
III – 2. 結果および考察
トビズムカデとアオズムカデを同じケージで飼育した時、飼育開始からわずか3日でアオズムカデ幼体が1頭、翌日、同成体1頭がトビズムカデに食されているのを確認した。その後、体長が同等の個体同士に分けて収容したが、再びアオズムカデ成体1頭が致死したことから種を分けて飼育することにした(写真4,写真5)。その際、個体間の大きさは問わず、幼体と成体を同じケージに収容した。
その結果、大小様々な個体が混在する環境下にもかかわらず、共食いにより致死する個体も無く、餌が摂れず衰弱する個体も無く無事に飼育することができた。これによりオオムカデ目の多頭飼育は可能であるものと考えられた。
IV. 適正な飼育数の検討
6月30日現在、トビズムカデ14頭、アオズムカデ17頭を種ごとに床面積560㎠のケージで飼育しているが、衛生環境を維持することを考慮するとこのケージではトビズムカデなら成体15頭、アオズムカデなら成体20頭が限界であるように思われた。
そこで上記の飼育数を基準に、例えば供試虫として150頭を維持することを考えた場合のケージについて検討した結果、適度な大きさで扱い易いものを見つけたので以下に報告する。
収納ケース ; LIFELEXクリアコンテナL 浅型 (コーナン商事㈱製,W361(W310)×D518(D460)×H184,床面積1426㎠ ) ※( )は内径
上記の収納ケースを多頭飼育ケージとして使用する場合、トビズムカデなら4箱、アオズムカデなら3箱あればよく、非常に狭いスペースで効率的に成体の大量飼育が実現できるものと思われた(写真6)。
なお、多頭飼育ケージにムカデを収容する際にはコツがあり、あらかじめ底面に湿らせたティシュペーパーを敷いたポリプロピレン樹脂製容器(Φ110mm×H120mm)に単独で収容した後、充分に落ち着かせてからケージ内へ床材ごと滑らせて移すのが良い。容器内で走り回っている個体をそのままケージへ投入すると暴れた勢いのまま他の個体と咬み合い、どちらかが負傷するかそのまま共食いに進展するため段階を踏む方が無難である。
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写真7 トビズムカデの卵 |
写真8 産卵用シェルター; レプティボウルS(㈱スドー製) |
写真9 トビズムカデの雌雄; 頭部より第3有肢胴節 |
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V. 繁殖および脱皮環境
採集したトビズムカデが偶然にも産卵したのだが、充分な数のシェルターを用意していなかったため他の個体に卵を食べられてしまい、一度に大量の個体数を確保できる貴重な機会を失ってしまった(写真7)。そこで、今後の長期飼育で想定される繁殖や脱皮に対応できる環境について検討した。
V – 1. 材料及び方法
①飼育対象; トビズムカデ
Scolopendra subspinipes mutilansL.Kochおよび、アオズムカデ
Scolopendra subspinipes japonicaL.Koch
②生育齢; トビズムカデ;体長50~70mmの個体 5頭、100~140mmの成体 9頭、アオズムカデ;体長50~70mmの個体 3頭、100mm前後の成体14頭
③採集地; 大阪府守口市森町北 森林内 (オオタカ保護区域)
④多頭飼育ケージ; ワイドビュークリア カラー 大 (㈱マルカン製,W375×D224×H235,床面積560㎠)
⑤シェルター; ウェットシェルターS (㈱スドー製,W90×D72×H60) 1個、レプティボウルS (㈱スドー製,W100×D100×H25) 3個
⑥餌台; コースター ミニプレート (㈱ホリコシ製,W85×D85×H18,深さ8mm) 1個
⑦水容器; ウェットシェルターS に貯水したものを共有し、7日毎に交換
⑧床材; ティシュペーパー エルモア200 (カミ商事㈱製,ケージ床面に8枚(4組),シェルター内床材として8枚(4組), 保湿用として4枚(2組))
⑨管理環境; 24~27℃(室温),60~80%R.H.
⑩飼育期間; 2011年6月22日~6月30日現在 (飼育継続中)
⑪飼育場所; 大阪府守口市森町, 鉄骨住宅, 2階, 北側居室内
⑫餌;リンゴ (品種は問わず外皮を剥いて約1cm角に切って2日毎に交換)
うす塩フィッシュソーセージ (丸大食品㈱製, 5mm角に切ったものを10個投入し、2日毎に交換)
きび砂糖 (日新製糖㈱製 0.5gを2mlの浄水で溶かし、無くなり次第追加)
V – 2. 結果および考察
多頭飼育を開始した当初、シェルターとして使用していたウェットシェルターS(㈱スドー製)は頂部に水を溜めることで適度な湿度を長時間に渡り保つことができる機能的な資材であるが、シェルター内部で雌ムカデが抱卵した際に他者の侵入を防ぎきれなかった。これは、出入口の開口部が大きいためと考えられ、このままでは脱皮の際にも同様に妨害を受ける恐れがあった。そこで、当初、餌台として使用していたレプティボウルS(㈱スドー製)を内部が一部見える程度、開口部が一箇所できるよう交互に3段積み上げてシェルターとした(写真8)。これにより、全ての個体数はまかなえないものの限られた広さで複数個体が抱卵できる環境を確保することができた。まだまだ改良の余地は残されているものの、多頭飼育においてシェルターの確保は不可欠な要素であり、繁殖や脱皮を成功させる上で極めて重要であると考えられた。
VI. 雌雄の判別方法
オオムカデ目を多頭飼育することにより、偶然に雌雄が揃い繁殖することも考えられるが、これを計画的に行う場合、雌雄の判別は必須条件となる。しかし、これは困難を極めるようである。オオムカデ目では、外部形態による雌雄の区別は難しい4)。特に、生きた個体での区別はかなり難しい4)。これは2次的性徴が乏しいことが原因である4)。総じて雌の方が体サイズは大きいが、これも参考程度にしかならないだろう4)。確実なのは、解剖によって内部生殖器官を見ることである4)。抱卵していれば明らかに雌である(田辺,2001)4)。このように、生きた個体での区別は飼育下で抱卵した雌を採取することしかないように思われる。秋山(2001)3)はこれまでの飼育経験に基づいた独自の判別方法を記している。雌は雄に比べて身体のつくりがシッカリしているので、大型化する3)。また、上から見ると胴部中ほどが雄に比べて膨らみを帯びている3)。雄は頭部が大きく見え顎肢節(第一有肢胴節)の幅が広く感じる3)。さらに胴部中ほどもまっすぐストレートに見える3)。第20有肢胴節以降が後方へ湾曲しているような雰囲気で、最後節が若干広いような気がする(秋山,2001)3)。オオムカデ目の雌雄の判別に関する情報は飼育法と同様、非常に乏しく、Lewis,J.G.E (1981)の「The Biology of Centipedes.」があるが、現在は入手できない。このような現状で秋山(2001)3)の判別基準は学術的とは言えないものの大変貴重である。
以上を踏まえ、飼育下で抱卵した雌成体の外部形態を観察した結果、第3有肢胴節が細く丸みを帯びており、身体全体に厚みがあり、胴部中央の体幅が大きく、頭部が流線型を呈していた(写真9)。秋山(2001)3)の基準をもとに雄と思われる個体を観察したところ、顎肢が外側に張り出していることから頭部が大きく見え、顎肢節(第1有肢胴節)から第20有肢胴節まで同等の体幅で平べったい印象もしくは棒状に見えた。おおよそではあるが、秋山(2001)3)の基準と一致する個体を確認することができた(図9)。
今後の参考となるよう雌雄の写真を添付した(図9)。なお、写真の雌は抱卵中の個体を採取してエタノールに沈めて致死させた個体であり、明らかな雌である。
上記の判別基準をもとに2011年5月23日~6月23日までの一ヵ月間に採集したトビズムカデ成体20頭とアオズムカデ成体16頭の性比について調べた結果、およそ1:1であった。なお、トビズムカデ成体10頭は採集して間もなく殺虫剤効力試験に供したため、現在の飼育個体には含まれていない。なお、供試虫は死後、70%エタノールに漬けて液浸標本として保存していたため外部形態を細部まで観察することができた。前述の判別基準が正確であると仮定するならば、比較的容易に雌雄を揃えることができ、繁殖に成功さえすれば人工飼育による供試虫の供給も実現できるものと思われた。
VII. 多頭飼育時の個体間接触
トビズムカデとアオズムカデを種ごとに多頭飼育し、行動を観察した結果、興味深い知見が得られたので報告する。なお、行動観察は23時から深夜1時までの2時間、可能な限り毎日行い、照明は電球色のダウンライト(間接照明)のみとした。
いずれの種もケージ内で他の個体と接触する際、触覚で相手の存在を認識した後、顎肢から第6有肢胴節までを宙に浮かせると同時に浮かせた歩肢を水平に広げて触覚のみで相手に触れ、歩肢の置き場を確認しながら進行方法の決定を行っている。接触された側の個体は相手が気に入らない場合、曳航肢を振り上げて威嚇している。これは異種間の飼育では見られず、接触したいずれか一方が襲われるなどして致死したが、同種間においては決して争う姿勢は見られず、6月14日の多頭飼育開始から16日を経過した現在も共食いにより負傷および致死した個体は無い。
VIII. 多頭飼育時の勢力相関
観察の結果、同種個体間の勢力に相関関係が存在することが示唆された。多頭飼育の開始から2日以内には勢力相関が決定しているようで、例えば体長70mm以下の個体は、自分より大きな体長90mm以上の個体に触覚で触れた直後、自ら引き返し隙間に潜り込むなどして身を隠してしまうことが数回に渡り観察された。また、体長90mm以上の比較的大型の個体同士では、より気性の激しい個体が餌場と水場の至近距離を陣取る様子が観察された。小型の個体は大型の個体が動かず休んでいる間に餌や水を摂取していた。このことから、勢力の強いものから順に餌を食べているものと思われた。
発育齢や大きさの異なる個体を混同して多頭飼育した場合、幼体など小型の個体には餌が充分に行き渡らない恐れがある。よって、給餌には充分な餌の量を供給する必要があるものと思われた。
まとめ
I. 採集時の天候は、連日晴天が続いた日よりも夜間に降雨のあった翌日が最も効率的に採集できた。また、採集時はピンセットではなく長さ45cmの火バサミを用いる方が安全に採集することができた。
II. 飼育ケージ内に敷く床材は、交換と清掃作業を短時間に終えることができ、ムカデを収容したまま作業できるティシュペーパーが最も効率的であった。
III. 同種間の大小様々な個体が混在する環境下でも飼育することができた。これによりオオムカデ目の多頭飼育は可能であると結論された。
IV. 同種間で飼育することにより床面積560㎠あたり、トビズムカデなら15頭、アオズムカデなら20頭の多頭飼育が可能であった。
V. レプティボウルS(㈱スドー製)を使用することにより、限られた広さで複数個体の抱卵できる環境を確保することができた。
VI. 抱卵した雌成体を観察した結果、第3有肢胴節が細く丸みを帯びており、身体全体に厚みがあり、腹部中央の体幅が大きく、頭部が流線型でスマートなのが雌の特徴であった。
VII. 観察の結果、個体間の接触時には触覚を利用して衝突を回避していた。
VIII. 観察の結果、個体間に勢力相関が存在することが示唆された。
以上の検証により、簡便な管理を可能とするオオムカデ目の飼育法の基礎が示された。
参考文献;
1) 石井象二郎ら,1969,特集;昆虫の人工飼育と栄養,「植物防疫 第23巻 第8号」(財)日本植物防疫協会, pp.1~38.
2) 湯嶋 健ら,昆虫の飼育法,(財)日本植物防疫協会, 1991
3) 秋山智隆,毒虫の飼育・繁殖マニュアル,㈱データハウス,2001
4) 田辺 力,多足類読本 – ムカデとヤスデの生物学 – ,東海大学出版会,2001
5) 野口 玉雄ら,学研の大図鑑 「危険・有毒生物」,㈱学研ホールディングス,2003
6) 羽根田 治,野外毒本 – 被害実例から知る日本の危険生物 – ,㈱山と渓谷社,2004
以上
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